道了尊奥の院に十一面観音様を訪ねる(神奈川県南足柄市)

道了尊。

神奈川県南足柄市の標高400メートルの地にある古刹は天狗のお寺として有名だが、正確には曹洞宗大雄山最乗寺という。

雨模様の平日早朝だったせいもあるのか、境内には見事に人がいない。

ほぼ貸切状態で(って境内、メチャメチャ広大なのですけどね)境内を歩き、この日結城が最初にめざしたのは、のっけから「奥の院」だった。

ただ、到達するまでの総階段数は、なんと354段とか。

正直、足が悪く、コロナ禍以来ずっとどこにも行けずにいたような輩がチャレンジするには無謀すぎる道のりだ。

354段……。

そう聞いただけでひるむ自分もいたが、めざすいただきにおわす仏様が十一面観音様だと聞いては、やはり挑まないわけにいかない。

観音様に手を合わせるために、私はここまで出向いた。

ちなみに境内マップを見ると、階段を使わず裏道的に坂道を上るルートもあるらしく、最初はそちらで行こうと思った。

だが総受付にいらっしゃったお坊様に伺うと――

「坂道は急なのできついかも知れません。階段の方が、きつかったら途中で手すりに掴まったまま休むこともできますので、そちらの方がいいと思います」

という。

聞いてよかった(涙)。(奥の院まで行けるか不安なかたがいらっしゃいましたら、ご参考までに)

ということで、御供橋を渡り、結界門をくぐり、御真殿でお詣りをしてから、いざ奥の院へ。

……正直、やはり身のほど知らずな挑戦ではあった。

はっきり言って、354段をなめていたな。笑

最初の150段ぐらいは、少し上るとところどころに踊り場的なところがあったりして、休もうと思えばそこで休めるが、ラストの200段は、見あげればゴールまでただただまっすぐに伸びる険しい階段があるばかり。

私は唖然とした。あとで気づいたが、写真を撮るのも忘れたぐらいだ。笑

しかし、ここまで来てやめるという選択肢はない。

がんばれ、結城。お前は高尾山のリフトにも乗ったではないか(死ぬほど怖かった。私、軽く高所恐怖症かも)。

行くぞ。

最後の200段を上りはじめた。

その始点となるのは天狗様。

行け!一段ずつ、ゆっくり上れば必ず終わる!と励まされている気がした。

一段。

また一段。

気温の低い朝で雨さえ降っていたが、玉の汗が噴きだしてくる。

明日は絶対筋肉痛で歩けなくなるなと確信しながら、ちょっと上ってはヒーヒー。またちょっと上ってはヒーヒー。

高いところがだめなので、後ろはふり向けない。

足がガクガクし始める。ついている杖がつるっとすべる。

ポタリ、ポタリと汗がしたたる。

そしてようやく。

上りきりました。涙

大雄山のもっとも高いところにあるという奥の院のお堂は、正確には「慈雲閣」。

折しもお堂と授与所が開けられている準備のさなかで、職員のかたとご挨拶をし、まずは小休止。汗をぬぐい、頂の静謐な大気の中で乱れた息がととのうのを待つ(なかなか息が戻りません)。

お堂は開扉されていた。どうやら中に入ってもいいようだ。

ようやく人心地ついた私は靴を脱ぎ、お堂の中に入って厨子の中の十一面観音様に長いこと手を合わせ続けた。

堂内ではとても太い蝋燭に灯りが点っており、私はその蝋燭の火を使って線香に火を点け、私の他には誰もいないのをいいことに、観音経と十一面観音様の真言を延々と唱えながら、観音様とお話をした。懺悔もした。笑

ただひたすら、十一面観音様を多分に含む観音様たちを追いかけて小浜や長浜の地を回り続けたのはもう8年も前のことになるが、そんな昔のことまで思いだしながら十一面観音様のおわすお堂の中で観音様といっしょにいると、なんともしみじみとした気持ちになったものだ。

ようやく祈りを終えると、お堂を出てかたわらの授与所へ。

どうしてもほしかった十一面観音様のお守りとお線香を買い求め、私は奥の院を後にした。

ようやくゆっくりと、奥の院以外のすばらしい堂宇にも目を向けられた私。笑

結界門近くのあたりから見あげる不動堂と滝の美しさにも目を見張るものがあった。

ちなみにこちらが、奥の院脇の授与所で買い求めたお線香。

授与所でお守りと線香を分けていただいたことは先ほど書いたとおりだが、実は私は、授与所にいらっしゃった係のかたから「あるプレゼント」を頂戴した。

それがこちら。

中に入っているのはなんだと思いますか?

実はそのかたは私に、十一面観音様の前でずっと灯し続け、短くなってお役御免になった太い蝋燭をくださったのだ。

はっきり言って、メチャメチャ嬉しかった。だって十一面観音堂で使われた、観音様の氣を深く宿した蝋燭ですよ。思わず「わあ、嬉しい!ありがとうございます!!」と小躍りしてしまったぐらいである。

一人で長いことお経を読み、ブツブツと真言まで唱えている汗だくの初老男がよほど不憫だったか笑、それとも「信心深い人だな……」と思ってくれたか、真意は分からない。

だがいずれにしても、神様仏様をお祀りする自宅仕事場の神聖なスポットに、新たな「家宝」がひとつ加わったことだけは間違いがない。

係のかた、本当にありがとうございました。おかげさまで無事に、家まで帰りましたよ。

案の定ひどい筋肉痛ですけど。笑

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この記事を書いた人

占術家、「幽木算命塾」塾長、怪異蒐集家。
算命学、紫微斗数、九星気学などの占術を使い、運命(宿命、運勢)という名の神秘の森に分け入る日々。
通信制私塾「幽木算命塾」で後進の指導にあたる。
占いで出逢ったお客さまなどを中心にさまざまな怪異を蒐集し、竹書房怪談文庫などで公開も。
奇妙な毎日は、ご神仏とともにある。

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