(※ネタバレになっていますので、未見のかたはご注意を)
映画のあらすじはここには書かない。
背中にくりからもんもんのある、歌舞伎の家とはまったく異なる環境に生まれた天才女形(吉沢亮)と
名門歌舞伎家に生まれ、必死に稽古をしては来たものの、自分の前に現れた真の天才との才能の差に苦しむ、やはり女形の御曹司(横浜流星)。
事前に知っていたのはこれぐらい。
情報をいっさいシャットアウトして映画館に行ったので、見る前まではひょっとして『アマデウス』みたいな話なのか知らんとか思っていた。
いい意味で裏切られた。
「芸」という耽美で摩訶不思議なものと生まれながらに数奇な運命で結ばれた二人の若者が
相手の「芸」を認め
おのれの「芸」と闘いながら
二人それぞれの形で「芸」なる魔物に呑みこまれ、翻弄され、不思議な浄化を果たしていく壮絶な芸道映画。
まさか自分が、「二人道成寺」や「曽根崎心中」「鷺娘」を見て、これほどまでに目頭が熱くなる日が来ようとは思わなかった。
私はたしかに、巨大なスクリーンの中に吉沢亮の「芸」、横浜流星の「芸」を見ていた。
もちろん監督・李相日の「芸」もあれば、撮影監督・ソフィアン・エル・ファニの「芸」、美術監督・種田陽平の「芸」もある。
しかしやはり、とりわけ見るものの心を打つのは孤高に舞台に立ち、一人の歌舞伎役者としてそこにいる、吉沢亮と横浜流星渾身の「芸」。
彼ら(をはじめとする名優陣)と一流スタッフたちの放つ「芸」の熱と鱗粉、薫香と
妖しい闇の儚さ、美しさを全身に浴びることのできる体験は、多分いくら大画面でも家庭のテレビでは無理。
絶対に映画館で見るべき映画。
(タイトル画像 ©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025 映画「国宝」製作委員会)