栃木県栃木市。
太平山東山麓に位置する「太山寺(たいさんじ)」は、通称「おおやまじ」として知られているのだとか。

毎年、4月9日と8月9日の2回。
しかも午前中のみ、観音堂の扉が開放される。
栃木県指定重要文化財、千手観世音菩薩様のご開帳である。
秘仏ご開帳――。
そうした情報を入手すると、万難を排して拝みに行こうとする幽木。
一時間半ほど車を飛ばし、栃木市の太山寺へ。
ところが。

めざす観音堂の位置を知ると、心が折れそうになる。
何段あったのか覚えていないが、足の悪い人間にはちとつらい、かなり急で長い階段。
しばし私は唖然とし、はるか彼方に小さくゴールの見える階段を見上げた。
だが、ここで帰る選択肢は私にはない。
ええい。
上り始めた。
日ごろ運動不足の人間にはやはりつらい。
息が上がる。
太腿が痛くなってくる。
石を打つ杖の音がだんだん乱れだす。
心臓が悲鳴を上げるように脈動した。
汗がぶわりと噴きだしてくる。

それでもようやく、観音堂が近づいてくる。
私は必死に階段を上り、そして――

上りきると別天地。
ようやく観音堂。
ぜいぜいと息を切らし、靴を脱いでお堂に上がる。
仏さまを拝む(あるいは、秘仏様にお目にかかる)という目的がなければ、120パーセント、こんな長い階段は、私は上らない笑。
ご開帳なので扉は開かれていて、明るく開放的である。
しかも、開けはなたれた厨子の中にも明かりが点っており、ご開帳と相成った千手観音様のお姿はとてもよく見えた。

鎌倉時代の作だという観音様は、像高243センチ。
けっこう大きい。
厨子から覗くお姿は上半身のみで、下半身を拝むことはかなわなかった(ちょっと残念)。
その大きさとお顔立ちのせいか、観音様は男性的なものを感じさせた。
思っていたほど参拝客がおらず、ほぼ貸切に近い状態で拝むことができたため(早い時間帯だったせいだと思う)、おそれながらブツブツと観音経偈文を唱え、私は一人手を合わせ、長いこと拝ませていただく。
至福の時間。
あな、ありがたや。
いつものように、私はじっといつまでも、観音様を見つめ続けた。

帰りには、隠れ家のような森の中のカフェで、おしるこタイム。
蝉の合唱がにぎやかだったが、テラスに吹き渡る風は快いものだった。
抹茶の入ったおしるこ。
ほどよい甘さで、とってもおいしかった。