マイ仏教美術⑦

私は、開催されている個展の会場を訪ねた。

館内に入ると、思っても見なかった巨大サイズの仏画たちが、軸に表装されてずらりと展示されている。

圧倒された。

普賢菩薩に文殊菩薩に千手観音、不動明王、孔雀明王などが、「でかっ!」としか言いようのないばかでかサイズ(当時の私にはそう見えました)で私を見下ろしてくる。

私は言葉もなく、会場内を移動した。

こんなにも大量の現代仏画を目の当たりにするのは初めてのこと。

どの作品も豪華絢爛としか言いようのない彩色美に満ち、しかも描かれているのは仏様がたである。

あまりの美しさにぐっときた。

仏画ってこんなにすごいものだったのかと、ちょっとしたカルチャーショックも受ける。

細長い会場の一番奥に飾られていたのは、不空羂索観音だった。

これまたばかでかい。

そして、これまた圧巻のきらびやかさ。

躍動感あふれる色彩と金箔が、荘厳にして美麗な仏教世界を、視神経を通じて私の脳と身体に洪水のように注ぎ込んでくる。

気づけば私は泣いていた。

どうして泣いているのか不思議で、自分でも驚いた。

だが私は不空羂索観音の前から離れられず、ずっと、ずっと、包みこまれるかのようにして、ばかでかい仏画の前に立っていた。

会場には、作品を描かれた先生がいらっしゃった。

図々しい私は、これらの作品は一枚描くのにどれぐらい時間がかかるのかと聞いた。

専業の美術家ではない先生は「4年ぐらいですかね」と事もなげに言った。

4年――。

私はまた驚いた。

うまくいかなかった時は、風呂場で泣きながら絵の具を洗い落とすんですよと先生は笑った。

失敗して後退することなど日常茶飯事。

それでも時間がある限り、毎日少しずつ、少しずつ、進めるのだと。

そうやって、4年――。

長い年月を経て、美しい仏様がこの世に姿を現される。

敬虔な思いに打たれた。

私の中で、何かが変わった。

そして私は、生徒の一人となった。

縁だったとしか言いようがない。

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この記事を書いた人

占術家、算命学ナビゲーター、「幽木算命塾」塾長、怪異蒐集家。
算命学、紫微斗数、九星気学などの占術を使い、運命(宿命、運勢)という名の神秘の森に分け入る日々。
オンラインスクール「幽木算命塾」で後進の指導にあたる。
占いで出逢ったお客さまなどを中心にさまざまな怪異を蒐集し、竹書房怪談文庫などで公開も。
奇妙な毎日は、ご神仏とともにある。

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