もう10年以上も前のことになる。
ある時私は、いきなり仏像にめざめた。
自分は何をしているのだろうと不思議だった。
だって、そんな人間ではなかったから。
家族の生活は私の双肩にかかっており、お金になることにしか興味がなかった。
死に物狂いで働いた。
そんな自分が、ある日唐突に、お金になんてまったくならない仏像に魅了された。
憑かれたように、仏像との出合いを求めて方々に旅をした。
足が悪いし面倒くさがりで、基本的に家にいるのが大好きな人間のはずなのに。
ウィークリーマンションを借りて京都に滞在した。
京都や奈良の古仏はもちろんのこと、滋賀や若狭の古寺にまで足を伸ばした。
原稿の仕事を抱えながら、国宝級古仏は言うに及ばず、ほんとうにさまざまな仏像と出合った。
人と、出逢った。
自分はいったい何をしているのだろうと、ずっと思いながら。